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なぜ認知症対策は「元気なうち」しかできないのか — 司法書士が現場で痛感する“取り返しのつかない分岐点”

2026年02月04日

「もう少し元気なうちに相談に来てくれていたら…」

これは、私が司法書士として現場に立つ中で、何度も心の中でつぶやいてきた言葉です。

認知症対策というと、多くの方は「症状が出てから考えるもの」「困ってから相談するもの」と思いがちです。しかし、実務の現実はまったく逆です。

認知症対策のほとんどは、"元気なうち"にしかできません。
そして、その分かれ道は、本人にも家族にも気づかれないまま、静かに訪れます。

第4回では、「なぜ元気なうちでなければ対策できないのか」を、法律実務の視点から、できる限り噛み砕いてお伝えします。

目次

  1. 「判断能力」がすべての前提になる理由
  2. 認知症と診断された瞬間に失われる選択肢
  3. 家族でも"代わりに決められない"法律の壁
  4. 香川県の相談現場でよくある後悔の言葉
  5. 元気なうちの準備が、家族を守る

1. 「判断能力」がすべての前提になる理由

法律の世界では、契約・贈与・遺言・信託など、あらゆる行為に共通する大前提があります。

それが**「本人に判断能力があること」**です。

判断能力とは、単に会話ができるかどうかではありません。

  • 自分の財産が何かを理解しているか
  • その行為が将来どんな結果をもたらすか分かっているか
  • 誰に、何を、どのように託すのかを自分の意思で選べているか

これらを総合して判断されます。

問題なのは、この判断能力がある日突然ゼロになるわけではないという点です。
少しずつ、しかし確実に低下していきます。

そのため、本人も家族も「まだ大丈夫」と思っている間に、実務上は"もう難しい"状態に入ってしまうことが少なくありません。

2. 認知症と診断された瞬間に失われる選択肢

「診断が出たら、もう何もできないんですか?」

相談の場で、よく聞かれる質問です。

答えは残念ながら、できることは一気に減ります

たとえば――

  • 遺言書を作ろうとしても、無効と判断される可能性
  • 生前贈与をしても、後から争いになるリスク
  • 家族信託を組もうとしても、契約能力が否定される

特に地方では、金融機関や不動産取引の現場が非常に慎重です。
香川県内でも、「少しでも認知症の疑いがある」と判断されると、手続き自体を断られるケースがあります。

つまり、対策をしようと思った時点で、すでに選択肢が閉ざされていることがあるのです。

3. 家族でも"代わりに決められない"法律の壁

多くのご家族が誤解しています。

「子どもなんだから、代わりに決められるはず」
「配偶者だから、当然できると思っていた」

しかし法律は、家族関係よりも本人の意思を最優先します。

判断能力が失われた後、家族ができることは極めて限定的です。

  • 預金の管理はできても、処分はできない
  • 不動産を維持することはできても、売却は原則不可
  • 節税や財産整理はほぼ不可能

結果として、成年後見制度に頼らざるを得なくなります。

成年後見制度は、判断能力が失われた方を守るための大切な制度です。
しかし、「自由に財産を動かすための制度」ではありません。

むしろ実務では、次のような制約が生まれます。

  • 自宅を売却するには家庭裁判所の許可が必要
  • 生前贈与や相続税対策は原則できない
  • 投資・資産組み換えなどの積極的な運用は不可
  • すべての支出に記録・報告義務が発生

つまり、"守ることはできるが、攻めることはできない"制度なのです。

「相続対策をしたい」
「空き家を売って施設費用に充てたい」
「家族信託で柔軟に管理したい」

こうした前向きな選択肢は、後見開始後にはほぼ不可能になります。

ご家族からは、こんな言葉をよく聞きます。

「こんなに何もできないとは思わなかった」
「もっと早く知っていれば…」

この"制度の現実"こそが、私が最もお伝えしたいポイントです。

4. 香川県の相談現場でよくある後悔の言葉

香川県は、全国的に見ても高齢化率が高い地域です。
特に高松市・坂出市・丸亀市周辺では、

  • 空き家の増加
  • 独居高齢者の増加
  • 子ども世代が県外在住

という事情が重なっています。

その結果、

「親の判断能力が落ちてから、県外の子どもが慌てて帰省する」
「いざ不動産を売ろうとして止まる」
「金融機関に断られる」

こうしたケースが後を絶ちません。

実際の相談では、次のような言葉が頻繁に出てきます。

「まだ元気だから大丈夫だと思っていました」
「こんなに早く悪くなるとは想像していませんでした」
「病院で診断が出た瞬間に、何も進まなくなりました」

皆さん、本当に同じことをおっしゃいます。

そして私は毎回、胸が締めつけられます。

対策さえ間に合えば、防げたはずの問題ばかりだからです。

法律の問題というより、
「タイミングの問題」なのです。

5. 元気なうちの準備が、家族を守る

では、何をいつ始めればいいのでしょうか。

答えは明確です。

"元気な今すぐ"です。

早すぎる対策は存在しません。
しかし、遅すぎる対策は確実に存在します。

元気なうちであれば、

  • 遺言書の作成
  • 家族信託の設計
  • 任意後見契約
  • 生前贈与
  • 不動産整理・売却
  • 口座の一本化
  • エンディングノート作成

これらすべてを、本人の意思で自由に選択できます。

そして何より大きいのは、

「家族が迷わなくて済むこと」

です。

認知症対策とは、財産を守るためだけの準備ではありません。

家族が

「これで良かったのだろうか」
「親の本当の希望は何だったのだろう」

と悩み続けなくて済むための準備です。

私は司法書士として、
数多くの"間に合わなかったご家族"を見てきました。

だからこそ、声を大にして言います。

認知症対策は、元気なうちにしかできません。
これは脅しでも営業トークでもなく、現場の事実です。

「まだ早いかな」
と思った"今この瞬間"が、実は最適なタイミングなのです。

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