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【第5回】空き家問題の本質――「相続されない家」が増え続ける社会

2025年07月04日

日本各地で深刻化する「空き家問題」。その背景には、バブル期に建てられた住宅が相続されず、取り残されている現実があります。本記事では、相続と空き家問題の関係性を歴史的視点から読み解きます。

■ 目次

  1. 空き家率上昇の現状データ
  2. 相続放棄が急増する背景とは
  3. 利用価値がなく処分費だけかかる家
  4. 放置された空き家の行政対応
  5. 今後求められる相続と不動産の整理術

1. 空き家率上昇の現状データ

 総務省の「住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は2023年時点で約920万戸、空き家率は13.8%と過去最高を記録しました。とりわけ地方の郊外や山間部では、集落単位で空き家が目立つ地域もあります。高齢化が進む中で、親が亡くなってもその家を誰も引き継がず、そのまま放置される事例が急増しているのです。

 この問題は見過ごせるレベルではありません。倒壊の危険性、衛生・防犯面のリスク、景観の悪化といった問題にとどまらず、税収の減少や地域コミュニティの空洞化にもつながっています。

2. 相続放棄が急増する背景とは

 空き家問題の根底には「相続放棄」の急増があります。法務省の統計によれば、家庭裁判所における相続放棄の件数は年間25万件を超えており、20年前の約2倍にまで増えています。特に不動産が含まれる相続案件で放棄される傾向が強く、価値のない土地や建物は「もらっても困る」というのが実情です。

 バブル期に郊外のニュータウンやリゾート地に建てられた住宅は、現在では老朽化し、交通の便も悪く、生活インフラも整っていない場合が多いです。こうした不動産を相続しても使い道がなく、売ろうにも買い手がつかず、維持費や固定資産税だけがのしかかってくる――そのため、最初から相続自体を放棄する人が増えているのです。

3. 利用価値がなく処分費だけかかる家

 建物は時間が経てば劣化します。築30年を過ぎれば修繕費も高額になり、家としての機能を維持するのが困難になります。しかも、不動産市場においては築年数が古い住宅は資産価値として評価されにくく、解体して更地にして売るにも数百万円単位の費用がかかります。

 その結果、「使えない・売れない・解体も高い」という"三重苦"により、多くの住宅がそのまま放置されてしまうのです。特に地方では、親が残した家を見に行くことすらままならない遠方の相続人が、手続きの煩雑さを嫌って放置するケースも多く見られます。

4. 放置された空き家の行政対応

 このような放置空き家に対し、行政も手をこまねいてはいません。2015年に施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、危険な空き家を「特定空家等」として指定し、所有者に対して修繕・撤去命令を出すことが可能になりました。命令に従わない場合は、行政代執行による強制撤去も行われます。

 ただし、この法律が適用されるのは「危険度の高い空き家」のみで、多くの空き家は現状のまま取り残されています。また、そもそも所有者不明で連絡が取れない場合も多く、行政としても対処のしようがないのが実情です。

5. 今後求められる相続と不動産の整理術

 空き家問題を解決するには、単に法律を整備するだけでなく、相続の段階からの備えが不可欠です。親の代で不動産の処分方針を決めておくこと、元気なうちに売却・賃貸・解体などの手続きを行っておくこと、そして遺言や生前贈与などを活用して、子世代の負担を最小限に抑えることが重要です。

 また、不動産の相続は「資産を受け継ぐ」だけでなく「責任を引き受ける」ことでもあるという意識を社会全体で持つ必要があります。これからの時代、「持ち家=資産」という常識は通用しなくなっており、「住まない家はなるべく早く処分する」という発想が求められるのです。

まとめ
 空き家問題は、高齢化社会の副産物であると同時に、バブル期の住宅政策のツケでもあります。「相続されない家」が増える今、個人レベルでの備えと、行政による支援の両輪が求められています。次回は、空き家や相続不動産の整理に役立つ制度や活用策について詳しく解説していきます。

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