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【第5回】家族信託の誤解──“信頼できる人に任せれば安心”ではない

2025年08月29日

近年、相続や認知症対策として「家族信託」が注目を集めています。
「信頼できる家族に財産管理を任せられる」「成年後見制度より柔軟に対応できる」などのメリットが強調され、書籍やセミナーでも盛んに紹介されています。

しかし、実際の現場では「信頼して任せたのに裏切られた」「仕組みを正しく理解せずに契約してしまった」といったトラブルや誤解による被害も少なくありません

本記事では、家族信託の基本とともに、過信によるリスクや、契約時に陥りがちな誤解、そして適切な活用のポイントを、具体例を交えて解説します。

【目次】

  1. 家族信託とは?──基本的な仕組みと特徴
  2. よくある誤解①「信託すればすべて安心」
  3. よくある誤解②「信託契約は簡単にできる」
  4. 実際にあったトラブル事例
  5. 信託契約を成功させるためのチェックポイント
  6. 家族信託を使わないほうがいいケース
  7. まとめ:信託は"信頼"だけでなく"仕組み"が重要

1. 家族信託とは?──基本的な仕組みと特徴

 家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託して管理・運用・処分してもらう契約です。

登場人物は以下の3者:

  • 委託者:財産を託す人(多くは親など)
  • 受託者:託された財産を管理する人(多くは子など)
  • 受益者:財産から利益を受け取る人(委託者と同じことが多い)

 成年後見制度ではできない柔軟な財産管理や、認知症になった後でも資産運用や不動産売却が可能になるなどの利点があります。

 

2. よくある誤解①「信託すればすべて安心」

 家族信託は「信頼できる人に任せれば何もかも安心」と思われがちですが、実際は受託者の裁量が非常に大きく、リスク管理が不可欠です。

  • 受託者が勝手に財産を売却してしまう
  • 受益者への利益還元がなされない
  • 委託者が口を出せない状況になる

 「信託だから安心」ではなく、「信託の内容と運用方法が明確だから安心」なのです。

 

3. よくある誤解②「信託契約は簡単にできる」

 信託契約は、確かに公正証書にしなくても契約自体は可能です。しかし、契約内容があいまいな場合、相続開始時にトラブルが起きやすくなります。

  • 相続税の評価が複雑になる
  • 不動産の名義変更や登記手続きが煩雑
  • 他の相続人との争いが生じる

 さらに、信託契約書に信託財産の使途制限、権限、終了時の手続きなどを明確に定めないと、受託者の暴走を止められません。

 

4. 実際にあったトラブル事例

【事例】
高齢の父が認知症に備え、長男と家族信託契約を締結。財産の大半は長男が管理することに。しかし、契約内容には使途制限がなく、長男は自らの事業資金に流用。
次男や他の相続人が気づいたときには、財産はほとんど残っておらず、「信託を使って財産を奪われた」と大きな争いに発展しました。

このように、「信頼していたから」「家族だから」という甘さが信託制度の濫用を招くケースもあるのです。

 

5. 信託契約を成功させるためのチェックポイント

 家族信託を適切に機能させるためには、以下の点を必ず確認しましょう。

  • 契約書は専門家(司法書士・弁護士)に依頼する
  • 財産の使途、制限、帳簿の保管方法を明確化
  • 信託終了後の財産の帰属先を明記
  • 受託者が不正を働かない仕組み(監督人や定期報告制度など)を導入

 特に、信託財産に不動産が含まれる場合、登記と税務の処理も重要です。専門的な視点を取り入れることで、トラブルを未然に防げます。

 

6. 家族信託を使わないほうがいいケース

 すべての家庭に家族信託が適しているわけではありません。以下のような場合は、慎重な検討が必要です。

  • 相続人同士の仲が悪く、対立が明らか
  • 信託する財産が少額すぎてメリットがない
  • 受託者に信託の管理能力がない
  • すでに他の相続対策(遺言・成年後見・遺留分対策等)が十分である

 むしろ、信託にこだわりすぎることで、他の手段を見落としてしまうリスクすらあります。

 

7. まとめ:信託は"信頼"だけでなく"仕組み"が重要

 「家族信託」は素晴らしい制度である一方で、制度を誤解して運用すると深刻なトラブルを生む可能性もあります。

  • 信託契約の中身をしっかりと理解する
  • 専門家の関与を惜しまない
  • 「信頼」ではなく「仕組み」で財産を守る

 家族に安心を届けるための手段が、かえって家族の不和を生むようでは本末転倒です。
 家族信託は「魔法の道具」ではなく、「きちんと設計された仕組み」であることを忘れてはいけません。

 

 これで本シリーズ「"善意"が招く、間違いだらけの相続対策」は完結です。
 最も大切なのは、「財産を残す側」の独りよがりにならず、受け取る側の負担や状況に思いを巡らせた設計をすること。そのために必要なのは、知識と準備、そして対話です。

 ご不明な点があれば、専門家による個別相談をご検討ください。信頼と安心の相続を、あなたの手で。

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